ぼくのあしあとを顧みるシリーズ

これまでの人生を振り返って、あれやこれや思うところを綴って参ります。

05 応援団で学んだ「無能」を克服する秘策とは?

~応援団を顧みるシリーズVol.5~

[目次]    

      

 〇はじめに ~自分のこんなところを変えたい!って思ったことはありませんか~

 最近は仙台の風がいっそう冷たくなってきましたね。私は遂に原付用の手袋を解禁しました。皆さんも季節の風邪には十分注意してくださいね。

 さて、突然ですが皆さんは「自分のこういうところ変えたいな!」と思った経験はありませんか。私には超あります。毎日ふとした時に、「あ、ここ…」っていう感じで改善したり修正したりしたいポイントが見つかるんですよね。以前少し綴ったことがあるのですが、私は要領が悪かったり、不器用だったり、無用心だったりするので、他の人に比べると「直したい!」って思う機会が多いのかな、と思っています。

 でもそんな風に「直したい!」って思ったとき、現実にはなかなか思うように自分を改善できないのがほとんど…。その場は何とか修正が利いても後でまた同じようなシチュエーションで失敗してしまったり、修正した結果、余計に良くない結果を生んでしまったりした

、という苦い経験は後を絶たないのではないでしょうか。そんな時は決まって「なんで自分はいつもこうなんだろう…」と自分を責めてしまいがちです。

 私が応援団に在籍していた頃、こういった経験はしょっちゅうでした。肝心なところで失敗をして、企画やメンバーにたくさん迷惑をかけ、そのたびに「自分ってなんでこんな無能なんだ」って嘆いた夜は数え切れません。でも嘆いてばかりではいつまで経っても結果は変わらない…。そう思って自分の「良くない部分」を変えるために色々なことに挑戦しました。

 そこで今回は卒団を機に、私が在団中実行してきた「無能克服術(笑)」をまとめてみたいと思います。こうして文章に起こして整理することで、それらを改めて自分の中で咀嚼し、これからさらに洗練していきたいと思います。やっぱり自分を克服するためには「自分を変えたい!」っていう思いが一番大切ですからね!その気持ちを再確認するためにも、一度、自分の「無能克服術(笑)」を振り返ってみましょう。

〇Summary

 今回の要点を先に書いてしまうと、私の「無能克服術」は次の3つのポイントから成り立っています。

 ①現状(スタート)を把握する。

 ②理想(ゴール)の状態を想像する。

 ③現状と理想の距離を近づける。

 ただこれだけだと、タスクが曖昧で何をすれば良いのかよくわからないですよね。そこで私は、それぞれのポイントについて、いくつか「タスク達成の為のコツ」を探してきました。今回はそれらを「段階」に分けて説明していきます。

 ではこのポイントに言及していく前に、自分を変える上で大切な「段階(スタートとゴール)」の考え方について少し触れておこうと思います。(→1章&2章)

尚、考え方の部分は読み飛ばしちゃっても本論に大きく影響っしないので、忙しい方は3章までスキップしちゃってください。

1.[大前提1]「無能」って何? ~「無能」にはゴール地点しか見えていない~

 そもそも、「無能」と一口に言っていますが、「無能」とは果たしてどういうこと(状態)なのでしょうか。また、なんで「無能」がだめなことなのでしょうか。表題にも結論を書いていますが、「無能の本質」と「無能がダメとされる理由」というのが「ゴールしか見えていないこと」になります。

 これは私の経験則に基づいた考えなのですが、物事を為すにあたって「ゴールしか見えていない」という状態は致命的な欠陥です。何故かというと、「失敗したときにリカバリーが効かないから」です。よっぽど運がいいか超人的な能力に恵まれていない限り、私達は常に「失敗」を経験します。ですから失敗したときにリカバリーすることができなければ、私達は永遠に物事を成すことができません。例えば、行ったことがない目的地を目指すときに、目的地の場所だけがわかっていたとしても、自分が今いる場所や、目的地までの道のりがわからないと目的地に辿り着くことはできませんよね。途中で道に迷ってしまった時、それを解決する手段を持ち合わせていないためにこういう事が起こってしまうのです。

 頻繁に、物事がうまくいかなかったことそのものを指して、「無能」というレッテルを貼られる(貼る)現場に遭遇することがありますが、これは間違った考え方で、「その結果をリカバリーすることができない状態」こそが「無能」のそれというわけです。ただしそれは「失敗したことが良いこと」というわけではありません。最初の段階で「失敗しないように」努力することも「無能でなくなるために」重要なフェーズとなります。この準備こそが「スタート地点に立つ」という行為になります。それでは「無能のどこがだめなのか」がわかったところで、それを克服する足掛かりとなる「スタート地点に立つ」準備について次章で解説していきます。

 

2.[大前提2]「変えたい」のスタート地点に立つ準備 ~課題に見当をつける~

 早速、スタート地点に立つ準備を始めていきましょう。今回の目標は「自分を変えたい(無能を克服したい)!」なので、「自分を変えたい!」という場合にスポットライトを当てて、スタート地点について解説したいと思います。ちなみに「スタート地点に立つ準備」が何故必要かというと、これ以降の思考と行動をフレキシブルに効率よく進める上で「課題を明確にする」ことが大切だからです。3章以降で重要な3つのポイントとそれに付随したいくつかのコツを綴っていくのですが、この3つのポイントを全ての物事に適応させて1から10まで丁寧に検証していたのでは日が暮れてしまいます。そこで、予め「課題」、つまり「自分が考えなければならないポイント」をはっきりさせることで効率的に「無能」からの脱却を図ります。

 まず「自分を変えたい!」という考え方の原点は「自分」と「他人」の2つに大別されます。それぞれ、スタート地点に立つ上で重要な点が若干異なるので、いったん分けて見ていきたいと思います。

 「変えたい!」が自分発の場合、一番重要になってくるのは「なんで自分がそう思ったか」という部分です。この時、大抵の場合は「〇〇がうまくいかなかったから」というのが理由に挙げられると思いますが、ここで思考をとめず「うまくいかなかった」という事について深堀りしていくことが重要です。この時、自分発の場合は「うまくいかなかった」という事象を「何故自分が変えたい」と思っているのか、という考え方ができるので、この考え方を用いると非常に効果的であると言えます。つまり、自分を顧みることで「自分が特に課題であると認識している部分」というのが何となくイメージできてくるのです。

 「変えたい!」が他人発の場合、わかりやすく言い換えると「他人から何らかの事象について変更を求められた場合」、一番重要になってくるのは「現実問題、何が物事に支障をきたしているのか」を考えることです。これを考えていくと引いては「何故相手が自分に変わって欲しい」と思っているのか、を考えることになります。ここでおさえておかなければいけないのは他人からの何らかの指摘が原因で、「自分を変えたい!」と自身が思っているとき、既に問題は現実世界に支障をきたしているという事です。つまりこの問題を理解することで修正しなければならない「課題」が具体的に見えてきます。

 こうしてここで考えた「変えたい!の理由」=「現状の課題」が細微でかつ具体的であればあるほど、この後の思考と行動がスムーズになります。スタート地点においてこれらの材料は「燃料」のような役割を果たしてくれます。先にも綴ったように「自分が考えなければならないポイント」がより明確になることで効率的に「無能」からの脱却を図ることができますし、何より、立ち返る原点がはっきりしていることでモチベーションを高く維持することができるのです。

こうして、スタート地点に立つ準備ができましたので、いよいよ次章から無能克服術の3つのポイントについて解説していきたいと思います。

3.「自分を変える」上で重要な3つのプロセス

 今回の要点を改めて振り返ると、私の「無能克服術」は次の3つのポイントから成り立っています。

 ①現状(スタート)を把握する。

 ②理想(ゴール)の状態を想像する。

 ③現状と理想の距離を近づける。

 第1章で触れたように、多くの場合、「無能」と呼ばれる状態にある人々は、「ゴール」しか見えていません。しかもそのゴールも綿密に計画されたものではなく、「なんとなく、こうなればいいな」といった程度のものである場合がほとんどです。そこで、無能からの脱却に必要なポイントが、以上に示したような「スタートを把握して」、「ゴールを想像し」、「スタートとゴールの乖離をできるだけ小さくしていく」という事になってきます。では実際にそれぞれのポイントにおいて重要なコツを見ていきましょう。ここからは、

 ・具体的にどんなことをするのか

 ・何故それが大事なのか

 ・気を付けなければならないこと

の3本立てでお送りしていきます。必要に応じて具体例などを付記し、無能を幾たびも経験してきた私なりのポイントも綴っていきたいと思います。

3-1.現状を把握する。

 第一にやらなければならないのは自分のスタート地点がどうなっているのか把握することです。改めて現状把握といわれても何をどう把握すればいいのかわからないことって結構ありますよね。そこで、現状把握をする上でマストなタスクを5つ挙げてみました。

①問題の本質を理解する。

②視野を広げる、見方を変える。

③デッドラインに対応した進捗度を分析する。

④最悪の未来を考える。

⑤他人の意見を拝聴する。

詳しくは、以下でタスクごとに解説していきますが、これらのうちどれかが欠けていると、途端にそこから計画が綻んで失敗が連鎖してしまう、なんてことも少なくありません。

 因みに、現状把握を行う重要性は「自分が帰ってくる場所を明確にすること」にあります。冒頭で「行ったことのない目的地へ向かう」という非常に抽象的な例を提示しました。例えばこの時、途中で道に迷って打つ手がなくなってしまった場合に、自分が元居た場所がわかっていれば、そこまで歩みを戻してルートやプランを再構築することができますよね。そんなわけで、現状把握は非常に重要な「無能克服術」の一手です。

 尚、気を付けなければならない点は項目ごとに記載しようと思うのですが、全体を通して気を付けなければならない点として「現状は刻一刻と変化する」を挙げておきたいと思います。したがって、現状把握にはある程度のスピードが求められ、また最初の一回だけではなく、タイミングを見計らって何度か現状把握を行うことも必要になってくる、ということを原則として覚えておきましょう。

 必要事項をおさえたところで、早速5つのタスクについて詳しく見ていきたいと思います。

3-1-1.問題の本質を理解する。

 現状把握を行う上で絶対に必要なことだと思っています。ある物事を遂行する上で一番大事なことを見つける作業になります。或いはその物事を遂行する大元の理由を明確にする作業です。特に失敗をリカバリーする際には、これを行わないと「見せかけの要因」に気をとられてしまい、適切な対応をとることができなくなってしまいます。少し抽象的すぎるので具体例を使ってその内容を説明したいと思います。折角なので応援団チックな話題を例にとってみましょう。(以下で例示する事象は、前提を除くと全てフィクションです。)

 私が所属していた応援団には恒常的に使用する楽曲が20曲前後存在していました。そのため、毎年、年度初めに入部を決めてくれた新一回生にはこの曲の用法を教える必要があります。特に専属の吹奏楽団の場合には「楽器パートごとに楽譜を配布する」というタスクをクリアしなければなりません。さて、それでは「楽器パートごとに楽譜を配布する」という問題を例に現状把握を進めてみましょう。ここで論点となるのは、大きく分けて「いつ、どのように」楽譜を渡すか、の2点になります。では本問題の「本質」とは何になるでしょう。人によって問題へのアプローチの仕方は様々だと思いますが、本質事項は「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」になると思われます。本問題において一番大切で、これが達成されなければ問題の解決にはならない、という至ってシンプルな回答になります。このように問題の本質とは、聴けば「当たり前」と思えるような明快な回答であることがほとんどです。

 さて、具体例を挟み、形式的にではありますが本質を理解するという事の内容が見えてきたかと思います。しかし、これだけでは何故「本質」をはっきりさせることが重要なのかよくわからないですよね。実はこのフェーズの重要性はこの後紹介する現状把握の他のポイントを考えていく上ではっきりしてきます。3章冒頭でも述べましたが現状把握を行うメインの利点は「自分が戻ってこられる原点を明確にすること」です。本質を理解することは、この原点を理解することといっても過言ではありません。何があっても変わらない重要な点、それが問題の本質なのです。つまりこの「楽譜配布問題」について議論する時、「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」という考え方がすべての理論の土台に組み込まれると考えてください。

 ここで、問題の本質を考える上で注意したい点を提示するために先に「視野を広げる」

というタスクの内容に触れておきたいと思います。

3-1-2.視野を広げる、見方を変える。

 問題の本質、すなわち問題の核(内面)を明確にしたところで、今度は「問題の外面・環境・状況」を調べていきます。この問題がどのように外の世界と関連しているのか考えましょう。若干ニュアンスは違うのですが、いわゆる「5W1H」を目安にすると考えやすいです。いつの問題なのか、誰がこの問題に関わるのか、この問題の影響はどこまで及ぶのか、必要なものは何か、必要なことは何か、etc…といった具合です。前節で「本質を理解する」ことが現状把握において必須である、と述べましたが、それで言えば本節のタスクは現状把握をする上で「最重要」であります。

 これが現状把握をする上で重要な理由は、先ほど考察した本質情報を最もいい形で結果へと昇華させるために、様々な形で検証する必要があるからです。つまり様々な事情を考慮して最良の未来を想像するための材料集め、という事になります。

 では、これについても「楽譜配布問題」に落として考えてみましょう。楽譜配布問題に関わる要素を考えて挙げていくとこんなに出てきます。(一例)

 ・楽譜の読み方を教えなければならない。(いつどこでだれがなにをどのように以下略)

 ・楽器の吹き方を教えなければならない。(5W1H

 ・楽譜を用意しなければならない。(5W1H

 ・新一回生はいつまでにどの曲が演奏できるようになればいいのか。

 ・デビュー時期は?

 ・他のパート(リーダー・チアリーダー)との兼ね合いはどうする?

 ・定例の練習には一回生をどのように組み込む?

 ・楽器初心者と楽器経験者によって必要な対応が違う。

 ・一回生の立場でこの問題を考える

 ・一回生のモチベーション向上という観点

 ・前年度までの方法はどうだったか。分析と反映。

 ・主に一回生の対応を行う二・三回生の立場でこの問題を考える。

 ・一般的に吹奏楽を取り扱う団体はどのように新譜を扱っているのか。

etc…(細かい問題はまだまだある)

これら一つ一つを後から綿密に検証していくのです。すなわち「楽譜配布問題」という一つの問題を、このように広視野かつ多角的に考えていく中で最良のパターンを導き出すことになります。視野を広げる、見方を変える、というのはこうした未来を想像するための材料を用意する、現状把握フェーズでの重要なタスクであるというわけです。

 さて、このタスクを遂行するにあたり、「本質を考える」というタスクと合わせて特に気を付けたいことが存在します。それは「視野を広げる過程で本質を見失わないこと」です。今回提示した例のように、意識的に本質情報から物事を考察した場合、本質を見失ってしまうケースは少ないと考えられます。例えば、「視野を広げる」段階で「一回生を2週間後にデビューさせたい」という事象が生じたとしましょう。要因は色々考えられますが、例えば「出演依頼が重なって、一回生にも出演してもらったほうが編成を組むうえで都合がいい」などが考えられるでしょう。この時、私は「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」という問題の本質を前提にして本課題を解決しなければなりません。すなわち「デビューさせたい」はあくまで団体の都合であり、「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになる」上で「2週間後にデビューさせる」ことが現実的に不適切であると考えられる場合は、「一回生をデビューさせずに本課題を別な形で解決する」という結果を導くことになるわけです。

 しかし、現実には問題の本質を分析する前に、まったく別の方面から問題が生じることがほとんどです。今の例でいえば、楽譜配布問題とは全く関係のないところで「出演依頼が重なって、上回生のみで編成を組むことが難しい」という問題が発生するわけです。ここできちんと「一回生をデビューさせる」という観点から「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」という本質を見抜くことができなければ、その場で本質に則った判断ができなくなってしまいます。もちろん本質情報というのは見方を変えるといくつか生じてくるのが道理ですが、こうして多角的に物事を考えていくときにそのいくつかの本質を見失わずに思考を進めることが、本タスクにおいて重要なことだと思われます。

 

(※追記1:一般的にある楽曲に取り組むためにはある程度の基礎知識・基礎技術が必要となります。したがって将来的に満足に楽曲の演奏を行うためには、基礎固めをきちんと行ってから楽曲に取り組むのが定石です。この理論をもとに以上の課題においては、基礎が固まっていないうちに楽曲に取り組むことは将来的に悪手である、という判断を行っています。)

(追記2:現在は多様性が尊重される世界なので曲に積極的に触って演奏の上達を図ろうという考え方も勿論存在します。)

3-1-3.デッドラインに対応した進捗度を分析する。

 さて、前者2点が非常に重要なタスクでしたので、それを伝えるべく長文になってしまいましたので、後者3点はシンプルに綴っていきたいと思います。

 3章冒頭で「タイミングを見計らって何度か現状把握を行うことが必要」ということを申し上げました。理由は現状が様々な外的要因により、刻一刻と変化するためです。そこで私達は、現状把握を行う際に「進捗度」を考えなくてはなりません。進捗度を考える上で必要なことは2つで「ゴールの状態」と「現時点からゴール地点までの距離」です。ゴールについては4章で詳しく触れていきますので割愛するとして、現時点からゴール地点までの距離を把握するという点について若干記載しておきます。

 現時点からゴール地点までの距離を知るうえで、一番欲しい情報は「あとどのくらいあればゴールまでたどりつけるか」という情報です。これを知るためにはゴールまでの綿密なルート構築が必要ですが(詳しくは3章2節で)、現状把握を行うという観点では「どこまでできたか」という「ToDoリスト」のチェックが必須です。このときただ単に「終わったか、終わってないか」という分析をするのではなく、一つ一つのToDoを「評価しつつ」チェックしていきます。そうすると、「まだ終わっていないタスク」のほかに「追加でこなさなければならないタスク」が見えてきます。これを元のToDoリストに追加していくのです。この作業が終わったら再度、「あとどのくらいあればゴールまでたどりつけるか」を検証します。こうすることで課題の進捗度が判明し、最新の現状把握が完了します。

 このタスクは、課題を遅延なく達成する上で非常に重要です。前節で「一回生を2週間後にデビューさせたい」が、「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」をベースに検証を行い、「一回生をデビューさせずに本課題を別な形で解決する」というルートをとった事例を取り上げました。つまりここでは「現段階では楽譜を配布しない」という結論に至っています。しかしここで、進捗度を考えるとルートを変更しなければならない場合が出てきます。例えば、「最上回生が3か月後に引退するため、最低でも3か月後までには一回生が楽譜を見ながら演奏ができる状態になったいなければならない」という状況が存在するとします。いわばこれが「ひとつのデッドライン(ある意味でのゴール)」となります。この時、様々な事象の検証を元に「このゴールを達成するためには現時点から3か月必要だ」という結果を得ているとしましょう。この場合、私達は「今、楽譜を配布する」という選択をとらざるを得ないわけです。(この例についても。詳しくは3章2節で触れていきます。)この場合、一週間後のデビューは見送るけど、現タイミングで楽譜は配布する、という選択を行うわけです。

余談ですが例えばこの時、「楽器経験者には一週間後に編成に加わってもらう」や「楽器は吹かないが雰囲気を覚えてもらうために練習には参加してもらう」などの、分岐プランが生じてくることもあります。このような分岐プランを柔軟に考えられるか、という点が、以降「ゴール」を考える上で重要になってきます。

3-1-4.最悪の未来を考える。

 さて、ここまでくると大分現状把握が完了していると言えます。そこで、本節で取り扱いたいタスクは現在から少し離れて「未来」のことを考えていきます。感覚的には前節の「進捗度を考える」タスクの延長線上にあたるタスクだと考えてください。それが「最悪の未来を考える」というタスクです。ここで考えるのは「ゴール」ではなく、「現状を鑑みたときに浮かんでくる最悪の未来」です。なぜこんなことをするのか、その理由は簡単で「最悪の未来を現実のものにしないようにするため」です。おおげさに「最悪の」という言い方をしていますが要は「これからおこりうる様々なトラブルを予測する」と書くとイメージしやすいのではないでしょうか。重要なのは、あてもなく予測するのではなくこれまでに考えてきた材料を元に「根拠をもって」予測をすることです。根拠をもって予測をすることでそのトラブルを未然に防ぐ手法が同時に見えてきます。すると、現状把握をした時点で予測がつくようなしょうもないトラブルは回避できるようになるわけです。

 あわせておさえておきたいのが、「最悪の未来を考える上でも本質情報を念頭に置いておくこと」と「トラブル回避を考える過程で見えてきた新たな材料をさらに検証すること」です。では、ここでも一応例題を扱っておきましょう。先の「楽譜配布問題」について、「一回生に楽譜は配布するけど、2週間後のステージには出さない(編成を上回生だけで組む)。」というルートを考えるとします。さてこの時、考えられうるトラブルにはどんなものがあげられるでしょうか。いくつかあると思いますが、例えば「楽器経験のある一回生や超器用な一回生であれば物理的には編成に加わることができるのではないだろうか」という想定に端を発したものです。これについて「自分、楽器吹けます」いう一回生の対応や、「なんで一回生編成に加えないの?」という厳しい編成を強いられる上回生の疑問に対応する必要が出てくるでしょう。詳しくは3章3節で触れますが、こういった「人」が密接に関わる問題は非常にデリケートであり、無視していると思わぬ形で企画が頓挫するケースがあります。(信頼問題に発展する為。)このように、現状把握をする時点で予測できるトラブルを未然に防ぐアクションを起こす準備をすることは非常に大切なのです。

3-1-5.他人の意見を拝聴する。

 ここまで手を尽くせば、「現状把握」という観点で自分ができることはほとんどないと言っても過言…です。何故なら人間はどこまでいっても「不完全」という特性を捨てきれないからです。そのため私達はさらに保険をかけなくてはなりません。それが「他人の力を借りる」という手法です。いわば「相談」です。自分がこれまで辿ってきた思考過程を整理して「現状」について他人に話してみるのです。そしてそれについて質問や意見を相手に求めてみます。

これをすることには大きく分けて2つのメリットが存在します。一つは相手に説明するという動作を通して自分の考えが整理される、ということです。意外とこれのおかげで、自分が1周目に気づくことができなかった問題に目を向けられるケースが存在します。もう一つが、他人から検証されることでフラットな目線での評価を受けることができる、ということです。これにより、自分が思いもつかなかった視点や問題に巡り合うことがあります。このようにして、現状把握の精度がどんどん高くなっていくのです。

ここまでくれば、自分が置かれている状況について超詳しくなっていると思います。ここまで来て初めて、私達は「問題のスタート地点に立つ」ことができます。そうして思考を次のフェーズに移していけるのです。

3-2.理想の状態と道のりを想像する。

 克服術の第二はゴールの状態とそこまでの道のり(過程)を見極めることです。ここで、冒頭で述べたような「ゴールしかみえていない無能」にならないためにはしっかりとゴールを見極め、スタート地点に立つときにもやったように地道にゴールまわりの足場を固めていく必要があります。そこで重要になってくるのが、以下の4つのタスクです。

 ①意識的に計画を立てる

②妥協を上手に活用する。

③サブプランを用意する。

④「人」について考え、調整を図る。

ではこれらについてもそれぞれ重要なポイントを見ていきたいと思います。尚、このフェーズは、現状把握の段階で如何に問題を分析できたかが難易度に直結します。しっかりと現状を分析して、ゴールを想像するための材料をたくさん持っていると案外簡単にゴールの様子が見えてきます。 

3-2-1.意識的に計画を立てる

 言い換えると、「綿密に計画を立てる」ということになります。当たり前のことですよね。本当に当たり前です。しかし、文字だけみたらそりゃ綿密に計画を立てるなんて大事だってわかるけど、何をすれば綿密に計画を立てたことになるの?って思われる方もいるのではないでしょうか。多くの場合、私達はこの「計画をたてる」という行為を半自動的に行っています。夏休みの宿題をイメージしてください。8月31日までに全部の課題が終わればいいわけです。最初の3日で全部終わらせる者、毎日少しずつやってある程度余裕をもって終わらせる者、最終日に気合で終わらせる者、様々だと思います。三者三様だと思いますが、いずれの場合も無意識的に計画は立てているわけです。後者の場合は計画をたてていないように見えますが、無意識に「最終日の自分に全てを託す」という計画をたてている、と考えることができます。この無意識的にやっている「計画を立てる」という行為を意識的に行うのが「計画を綿密にたてる」という事です。

 無能から脱することにおいて、この「意識的に計画を立てる」という行為は絶大な効果を発揮します。一番簡単な「意識化」は「書き起こす」という行為です。格好よく書くと「計画の可視化」です。これにより、文字通りタスク(ToDo)や目標(目的地)が「視えます」。すると、より明確にゴールの様子を想像できます。さらに、前節で検証したたくさんの材料を余すことなく計画に盛り込むことができるようになります。実際問題、現状分析を前節で示した通りに丁寧に行うと、それだけ多くのフィードバックが発生しますので、よほど要領がいいか記憶力に優れていないと、それらを十分に計画へと反映させることはできません。その意味で、「綿密に計画を立てる」ことは「意識的に」ないしは「丁寧に」計画を立てる、と言い換えられるわけです。

 一例として「計画の可視化」を挙げましたが、このポイントはどちらかというと精神論的な話であり、気持ちの上で「丁寧に計画を立てよう」と考えることが非常に重要です。どこまで丁寧にやるか、というのは、結局各々の裁量によると思いますが、少なくとも自分自身が企画の成功(課題の解決)をイメージできるくらいには一生懸命本タスクに打ち込む必要があるでしょう。時間が許す限りはここに労力をつぎ込んでしまって問題ないと思っています。尚、「計画を立てる」という事にスポットライトを当てるとこれだけで一つ記事を用意できてしまうので、ここでの詳述は避けようと思います。また折を見つけて、文章化する予定です。

 3-2-2.妥協を上手に活用する。

 ゴールまでの道のりを、計画として少しずつ可視化していく過程で、絶対に避けては通れない事があります。それが「妥協」です。これについては例で考えたほうがわかりやすいと思うので先に例をご覧ください。

 もう一度「楽譜配布問題」を思い出してみてください。前提条件を復習してみましょう。ここでの本質情報は「新一回生が将来的に使用楽曲を吹けるようになること」です。また一般的に、楽曲に取り組むにあたってはある程度の基礎知識・基礎技術が必要である、という考え方が定石とされています。従って将来的に満足に楽曲の演奏を行うためには、基礎固めを十分に行ってから楽曲に取り組むのが普通であり、楽器に初めて触る人は、初めの数ヶ月間は基礎練習に専念するケースが多く見受けられます。(前述のとおり、現在は多様性が尊重される世界なので曲に積極的に触って演奏の上達を図ろうという考え方も勿論存在します。)ここで、楽器初心者を想定して基礎固めを重視したムーブを理想とした時、例えば「5月~7月は基礎練習のみを行い、8月に楽譜を配って10月には20数曲全ての演奏ができる状態を目指す」というプランを用意したとしましょう。では、ここに「最上回生が8月に引退するため、最低でも8月までには一回生が楽譜を見ながら演奏ができる状態になったいなければならない」という条件が加わったとします。こうなると、8月に楽譜を配ったのでは条件を満たすことができなそうです。そこでプランを「5月は基礎練習のみを行い、6月に楽譜を配って8月には20数曲全ての演奏ができる状態を目指す」のように形式的に変更するとします。しかしこれでは「基礎練習」を行う時間があまりにも足りなそうです。それでは5月の段階で何日か「基礎練習」を行う日程を増設してみましょう。練習日を増設するためには、メンバーの予定や負担を考えた日程調整や練習場所の確保が必要になります。すると、練習日を増やすという選択肢はどうやら現実的には厳しいという事が判明しました。そうすると、どうやら初動を早める(例えば4月から動き出す)か、もともと上回生用に設定してあった練習内容をいくらか見直して、一回生寄りの内容に組み替えなければならないかもしれません。

このように、ある2つの事象を擦り合わせるだけでもこのような妥協と調整が必要になってきます。重要なのは「妥協を行う際には必ずそれに見合った調整を考察する」ことです。時には意を決してバッサリ切り落してしまう選択も必要になりますが、基本的には妥協したことの補填をどのように行うか考察する癖をつけておくのが良いでしょう。こういった妥協と調整を、前節で用意したプランニングのための材料を擦り合わせる過程で根気強く行っていきます。

 3-2-3.サブプランを用意する。

 このようにゴールと、それに続く道のりがなんとなく定まってくると、1つの企画につき、1つのプランが用意されることになります。基本的にはこのプランのガイドラインに沿って物事を進めていき、うまくいかなくなったら修正を加えつつゴールを目指すのが最も簡単な企画の流れになります。しかし、物事には「失敗が絶対に許せないとき」や「軌道修正を行っている余裕がない場合」などがありますよね。こんな時に、必要なのが「サブプランの用意」です。以上のように切羽詰まった場合だけでなく、「失敗したときにリカバリーするのが苦手…」という方にとっても、サブプランの用意は非常に効果的です。因みにサブプランの作り方についても、真面目に語りだしたら記事1本の範疇を余裕で越えてしまうので詳述は避けます。

 基本の考え方としては前節の「デッドラインに対応した進捗度を分析する」項で若干触れた「分岐ルートを柔軟に考察する」であったり、先ほど「妥協を上手に活用する」項で出てきた「調整」の切り口を変えてみたりすることがサブプランの構築に役立ちます。ただし、あまり難しく考えすぎず、メインプラン1つだけで勝負するのではなく、いくつか代替できるプランを考えておく、くらいの認識ができていれば良いと思います。ただし、「数で勝負」といった考え方はこの場合間違っていることが多いので、あくまで「メインプラン」の補強を第一に考えることが大切です。

 3-2-4.「人」について考え、調整を図る。

 さて、2節最後のタスクになります。実はこれが全タスクを通して最高難易度を誇ると言っても過言ではありません。何故なら「他人の行動や考えは究極的にはわからないから」です。さらにこれが全タスクを通して最重要課題になります。何故なら「プランの崩壊は人的要因である場合が多いから」です。ここでやらなければならないことは課題、問題、企画、計画などなど…に関わる人間の行動と思考の分析及び調整です。何故こんな手間のかかることをしなければならないか、というと「他人が関わる物事は自分一人では運用できないから」です。問題が自分一人のものであれば、このステップは必要ありません。しかし、他人が関わる時点で、その他人の行動や思考がそのまま物事の結果に影響を与えてしまいます。したがって、どれだけ素晴らしいプランを用意しても人選を間違えれば破綻しますし、メンバーの心情を理解していなければ、自分は信頼をなくしてしまいプラン自体が立ち行かなくなる可能性も考えられます。

 一口に他人の行動や思考を分析して、調整を図る、と言いますが、具体的にはどのようなことをすればいいのでしょうか。これについても「分析の仕方」に焦点をあてた瞬間に1記事のキャパがオーバーするので、別の機会に文章化します。本記事では、タスクの可視化のみ行っておきます。

 ①物事を運用する上でのリーダーとバディーを想定する。

 ②タスクを分配する上で適任を探す。

 ③プランのアウトプットを行う上で問題が生じそうな箇所を予めケアしておく。

 ④プランを遂行する上で問題が生じそうな箇所を予めケアしておく。

 ⑤対案及び反対意見を予めケアしておく。

 ⑥アウトプットする情報とアウトプットしない情報、およびその範囲を見極める。

 ⑦プランに関する問い合わせ先を明確にし、迅速に対応ができる仕組みづくりを行う。

 ⑧各々のキャパシティー及び進捗度を把握する。もしくはいつでも進捗度がわかる仕組みを作っておく。

 ⑨必要に応じて成果の共有・進捗度の共有を行う。

こんなところでしょうか…。実際にはタスクに終わりはなく、列挙すればキリがないとは思いますが、メインどころはこのあたりだと思われます。

 実はこの「対人」に関わる部分については人によって評価が分かれる部分なのですが、私自身は、このタスクを可能な限り深めれば深めるほど、企画の成功率は高まると感じています。(他人の領分は他人の領分として割り切るべきだという考え方の人も多く見かけます。)理由は前述したとおりです。ただし一点気を付けておかなければならないのは、あくまで自分が一番大切、という事です。他人を気にするあまり、自身の仕事が疎かになってしまったのでは元も子もありません。そのような現象は特に「責任者」の経験が浅い人ほど陥りやすいので、自覚がある方は要注意です。もちろん経験談です。

 最重要課題でしたのに割と淡白に綴ってしまいました。本件についてはまた別の機会に、しっかりと一本の記事にまとめたいと思います。

 3-3.現状と理想の距離を近づける。

 克服術もいよいよ大詰めです。そもそもこの文章は「自分を変えたい!」がスタートになって始まった文章でした。第2章でも書きましたが、このように「自分を変えたい」という気持ちが生じることには理由があり、その理由を解明することこそが、自分を変えることの最大の近道になります。しかしいわゆる「無能」と呼ばれる状態に私達があるとき、物事を正しく視ることができていない場合がほとんどです。そこで3章の1節と2節では「スタート地点に立つこと」「ゴールを想像すること」「スタートからゴールまでのルートを構築する」という事を丁寧に行ってきました。そんな今ならしっかりと「自分を変えたい理由」を見つけることができるのではないでしょうか。ここで重要になってくるのが次の二つになります。メインのタスクはもう済んでいますから、後は考え方のコツをおさえるだけでいいというわけです。

①「何が足りなくて現状と理想が乖離しているのか」という考え方

②「何故、現状と理想が乖離しているのか」という考え方

まずはこの二つの考え方を使って、自分の弱点、変えたい部分の根幹に迫ります。前述のとおり、スタートからゴールまでの道のりが明瞭に見えていれば、これを考える過程で「どうすれば足りない点を補うことができるか」、すなわち「どうすれば現実を理想に近づけられるか」が具体的にわかると思います。この時「どうしたらいいかわからない」という状態になってしまう場合、それは「スタートからゴールまでの道のりがまだよくわかっていない」ということを示唆しているといえるでしょう。その場合はまず本章の1節、2節のフェーズに立ち返って、物事を分析するというアプローチが必要です。

 このようにして課題の解決方法が見えてきたとき、余裕があったらやっておきたいことがもう一つだけあります。それが「応用を可能にするために課題を一般化する」というタスクです。これだけ労力がかかる作業を毎回毎回地道にやるのはさすがに骨が折れます。おそらく精度を保ってこれらを遂行するのは現実的に不可能でしょう。そこで一度課題として取り扱った事象を一般化し、他の事例にも応用が利くように引き出しにしまっておくのです。方法自体は割と簡単で、3章1節、2節で紹介したタスク、これのどこに課題が引っかかっていたかを分析するのです。ここまで読み進めていただけましたらわかるように、これらのタスクは全て一般化されているんですよね。ですからノウハウなどを難しく考えずとも、「自分はどこのタイミング(タスク)で躓きやすいのか」という事を、都度都度自覚することで、同じ轍を踏まないような自分が出来上がるのです。この作業、あまり慣れていない方にとっては、「いうてケースバイケースだし、応用って言ってもなかなか厳しいのでは?」という印象を抱きがちなのですが、コツをつかんでくると「やっぱり今回もここが落とし穴だったな…」といった具合に、課題の一般化の有用性を実感することができます。習うより慣れろ、ということでとりあえず頭に入れておいてくだされば幸いです。

 〇おわりに ~気持ちを行動に、まずは一歩踏み出そう~

 非常に長くなってしまいましたが、以上が、私が応援団で学び、培い、今も重宝している「無能克服術(笑)」です。改めてまとめてみると、、

 ①現状(スタート)を把握する。

 ②理想(ゴール)の状態を想像する。

 ③現状と理想の距離を近づける。

この3つですね。

 こうして、タスクがなんだ、ポイントがなんだ、と書いてきた後に言うのもなんですが、これらの作業は各々の「変わりたい!変えたい!」という気持ちなしには成立しません。何をやってもうまくできない自分や、手を尽くしても好転しない環境に対して卑屈にならず、「変えたいんだ!」という自分の気持ちに素直になって、今、無能克服の一歩を踏み出しましょう。きっとその先にあるのは茨の道ですが、そこを通ることによって莫大な経験値がゲットできるに違いないと、私は今考えています。

 

過ちの悔い喰わばこそ重しけれ 3年半の修羅をその背に

11月某日 加藤禎也